「なんでもいいよ」を形にするマーケティング
「なんでもいいという言葉が嫌いだ」そんな話を友人から聞いた。「なんでもいいって言うくせに、決めたら文句を言うから」
確かにそういった人間は多数存在する。むしろ「なんでもいい派」の方が多いのではないだろうか?
この正体を私は知っている。ずばり「何でもいい」は「なにかしたいけど、自分でわかっていない=解像度が低い状態」である。なんとなく遊びたいが、何をして遊ぼうか。うーん、何だろう。まあ何でもいいかな。こんな感じ。しかし実際は自分で気づいていない「本当の欲求」がある。
「何でもいい」って言われた場合、ことばを鵜呑みにして、自分が行きたい場所を提示してはならない。「思ってたんと違う」と言われる。でもじゃあ何がいいの、といっても上手い答えが返ってこない。これが一番日本人の面倒くさい性質だろう。
じゃあどうすればいいんだ!!!!!!と思う方。
「勝手マーケティング」をしてみる。
もう少しかみ砕くと「相手の気持ちに立ってみる」。これだけではわかりにくいので、ワークショップ的に事例を紹介してみる。
【事例】
在宅勤務も早3ヶ月。久々に出社して会社の20代女子先輩とランチ、雑談。
「最近みなさんと喋れてなくて寂しいですね」「そうやねー」「なんか日帰りとかでもいいんで、喋れる機会がほしいですね」「いこ!」
他の若手20代女子も誘うことになり、結果5人で旅行となった。最終1泊2日旅行になったのだが、大阪を起点としてどこへ行こう?起草者として他メンバーに聞いてみる。返答は一つ。
「なんでもいいよ」
さあ始まりましたなんでもいいよ選手権。こんな場合、あなたはどんな旅行プランを提案する?
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【前提条件】
・最近喋っていないので話をしたい女子5人
・オンライン懇親会ではなく「旅行」である
・コロナ下なので遠くは無理
・広告会社、普段は繁忙度高め。土日で旅行。
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いかがだろうか?大阪視点だが、ぜひ東京目線でも考えてみてほしい。これらを聞いて、おまめが考えることはこんな感じ。
①動き回るプランはNG。例えば加賀温泉。加賀温泉は温泉以外特になく、観光するなら金沢か福井まで電車で揺られないといけない。また観光地が1か所に集まっているわけではないので、一つ一つを周回するような形になる。
②ホテルで女子会もNG。例えば神戸のオシャレホテル。喋るのが目的といいつつ、女子会ではなく「旅行にいきたい」と明言している。つまり普段の喧騒から離れた非日常を満喫したいという隠れたニーズがあるだろう。
③考えて動くプランはNG。繁忙度高めの会社なので、旅行先でいちいちどこに行く、何する?と会話する時間が疲弊するだろう。提案者も参加者も、やることがシンプルで決まっているものが良い。
以上3点から鑑みておまめは「三重の伊勢志摩観光プラン」を提案してみた。
【良いと思った点】
・伊勢神宮と賢島でちょうど1泊2日が満たせる
・トークは晩飯後のため、晩飯まで体力を温存できる
・宿の景色が良い、温泉が良い、食事が美味しそう
・おかげ横丁で時間が調整できる
・伊勢参拝チケットと賢島~伊勢までのフリー切符付きで、新しく何かを買う必要がない
結果はみんな満場一致でOK。無事文句あるあるを回避することが出来た。
なんというか、この一連の流れはやっぱりマーケティングにも似ていると思う。
よく商品企画の本には「お客様の声を聞いてはいけない」という言葉がある。これは「なんでもいい」を鵜呑みにして企画を立てるのと同じ意味合いだろう。お客様が本当のことを言っているとは限らない。お客様目線、何言ってもいい。嘘を言ってもいい。本当にそう思っていると自分で感じていても、実は深層心理では別のメニューの方が嬉しいなんてこともよくある。
なんというか、マーケティングは難しい。本当かウソかわからない意見とデータのもとで、お客様以上にお客様のことを想像する必要があるからだ。しかも的外れな想像ではいけない、お客様の輪郭を掴みながら、本人が気付いていない欲求をひたすらに考えるのだ。
お客様の意見をなんでも反映する業界は潰れると私は思う。お客様のプロフィールも見ずに、思考を放棄して相手の言い分を鵜呑みにしているからだ。案の定失敗して首をかしげるマーケターを見てきたが、当然だ。そして首をかしげている奴に限ってこういうのだ。「お客様が言ったから」。
何かを企画し、実行する者は相手の立場で物事を考えること。特にそれを仕事にしている者は猶更だ。
なんでもいい、の一言でここまで考えるのは考えすぎやねんって思うかもしれないが、逆に考え抜いて作って、満足してもらえると私はとても嬉しい気持ちになる。
相手の立場になって考える。たったそれだけだけど、結構難しいのかもしれない。